Project

ジャズサムライデュオ

発端はあるバンドで共演したことがきっかけだった。燕尾服のようなスーツを着て泥鰌のような髭をたくわえて変わった奴だなと思った。口調は白黒がはっきりとしていて明るく、きついことを言っても好感を持たれるような稀有なタイプ。でも得体が知れない。なぜか私は気に入った。なぜかはわからない。

あるとき音楽的制約のゆるい(何を演奏してもよい)デュオの仕事があったので頼んでみた。どうなるか興味があったので。試しに。

普通に始めてみたところが、面白いことになった。楽しかったのでつい羽目を外してしまったがそれほど後悔はしなかった。かえってさっぱりした。こんなことは珍しい。

もっと演奏したかったのでまたライブをやってみた。さらにまた面白い。

それで「録音しようか?」となった。

どう面白いかということを説明すると、普段、我々ジャズをやる連中はピアノ(あるいはメロディ楽器)がテーマをとって、それぞれアドリブしてテーマに戻るということをする。これがベーシックな構成。ところがそうならなくなるところが面白い。

また、ジャズは題材となる曲の和声に基づいてリズムを決め即興するが(暗黙のルール)、我々はそれを逸脱する。リズムから離れる。これを了解なしにいきなりやる。我々の間では「フリーになる」というふうに表現するがフリーといったってその段階はいくつもあるのでどの段階に移行するかが難しい。2階にいたのに次の瞬間ひとりは5階にひとりは7階ということが起こりうる。たとえばリズムだけはキープとか調だけはキープとかメロディーはキープとか、どの程度音楽を崩していくかが移行の前段階でさぐりあいになる。また探り合わないと、そういうことができないとデュオはつまらない。というよりジャズはつまらない。

難しいだけあっていつもうまくいくとは限らないのだが、うまくいくと我々だけのオリジナル芸術作品となる。アートだな。

もっとも私は、ジャズは音楽を作り上げる過程を鑑賞するものあるいは楽しむものと思っているので私が「失敗だった」と思っていても、出来上がってくる音楽は音楽で成立するのである。

ようするにジャズは演奏者自身が納得できる音を出し続けていれば結果は好しなのだ。

いわば個人自業主である。倒産しようが成功しようがすべて個人責任。個人個人に好きな音楽があり嗜好があり志向がり指向があるわけで、それが同時進行するわけだ。

当然ある時点で1本のラインが2本、ということになる。

だからジャズはグループが出来ては解散し、仲良くなっては喧嘩別れをし、結婚しては離婚し、辞めてはまた復活するのだ。誰々トリオといってベースやドラムがしょっちゅう変わるのは珍しくない。

マイルスやジャズメッセンジャーズを例にとればわかりやすいだろう。

話を元に戻そう。

自由な発想とそれをお互いに認め合い且つ自分の即興演奏を貫く。早い話がフリーミュージックになるわけだけれども。(しかし今現在はフリーミュージックもカテゴライズされているからなあ)

そのフリー音楽は、一言でいえば「どうでもいい」という無差別級K1のリングアウトの乱闘みたいなものだが、「どうでもいい」ということが突き詰めるとこれがまた「どうでもよくない」大変な難物なのである。説明はめんどくさいので省く。

が、しかし、私はそれを知っているので「どうでもいい」と言いつつ守るべきものを幾つか曲の中に持たせている。これをザ・共演者、鯰髭のピアニストが気づくかどうかは神のみぞ知るだが、おそらくは同時に鯰髭も同じことを試みているだろう。以心伝心わかるものなのだ。(あるいはまったくわからない。勘違いというのもあるしね)

ではそういったことを踏まえ十分なリハーサルをすればよりよい結果になるではないかと言えば「そうではない!」というのがジャズの面白さである。最初の演奏というのが我々にとっては実に新鮮で思いがけない成果を生むことが多いのだ。出会いがしらである。ブレーキを踏む余裕がない状態での衝突。これが、衝撃がでかい。したがってジャズの録音はファーストテイクがほとんどである。

我々がこのデュオにおいて課していることはスタンダードあるいはそれに準ずるものを演奏するということ。そしてリハーサルはやらない。

したがってその録音方法はヘッドフォン無しのライブ状態でベースアンプも用いる。それはなぜか。ベースの音がピアニストに十分に聞こえるようにするためにはアンプが必要だからだ。ベースの前にマイクをセットするのでほとんど録音された音は生音だが、アンプから回り込む音も拾うので幾分<もちっ>とした音になる。

まあどんな音に録れようが我々には最強のエンジニア、MAS ANAIがついている。ので安心である。

このセットではフルコンのようなでかい楽器はやりにくい。ふつうのグランドピアノがやりやすい。

フルコンになると音がでかすぎるのだ。ベースも「でかい楽器だな」と言われるがこんなもの比較にならない。なんてったってピアノは楽器の王様ですからね。ふん。

というわけでCDはとんでもないことが起きているわりには一般的なリスナーに受けている。売上は社長が口ごもってなかなか明かさないのでわからないが、このデュオで100曲録音しようという話になっている。どこまで本気かわからない。何せすぐ解散はジャズメンの習い性なのだから。 

加藤真一

Support

中筋 純(なかすじ・じゅん)

ジャケット写真。
1966年和歌山県生まれ。智辯学園和歌山中学高等学校をへて、東京外国語大学中国語学科へ。大学在籍中より、海外を放浪し、独学で写真技術を習得。卒業後出版社勤務の後、中筋写真事務所設立。ストリートファッション雑誌、アパレル広告をメインに、映画スチール、舞台広告、CDジャケット撮影など幅広いジャンルで活躍。

廃墟撮影はライフワークでもあり著書に『廃墟チェルノブイリ』『廃墟探訪』(二見書房)、『廃墟本1』『廃墟本2』(ミリオン出版)、『廃墟彷徨』(ぶんか社)、『廃墟、その光と陰』『愛という廃墟』(いずれも共著、東邦出版)がある。

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Mas Anai

エンジニア。
1967年福岡県生まれ。上京後、メジャーレコーディングスタジオに勤務。独立しスタジオ設立。

レコーディングスタジオ、並びに音楽出版会社COSMIC FACTORY INC. 主宰。

全ジャンル対応型エンジニアであり、自社スタジオにて、ミックス、マスタリングまで、同じ環境で行える。また、アウトプットにおいても、様々な分野を熟知し、各種音楽マーケット、Web、放送、イベント、ホール等、その場面に対応した音作りをする。ビンテージ機材を知り尽くし、アナログ機材にも精通している。また、スタジオの立案、調整も頼まれる事もあり、自社のスタジオは、サントリーホールをカラヤンと調整した棟梁に師事し、音響の調整にも長けている。

世界最古のイコライザーを所有するCosmic スタジオで創られる独創的な音には定評がある。新旧のテクニックを織りまぜたその技術と、音楽業界だけに留まらず、様々な分野でコラポレーションし活躍するその感性で、時代のニーズに対応するサウンドをクリエイトし続けている。

»http://gwall.biz/

JazzSamuraiセカンドのライナーノーツより

今回のJazzSamuraiの録音、ミックスに関れた事は、私のエンジニア人生の中でも、もっとも理想に近い形で出来たレコーディングでありました。それは、何かと言うと、全作業において、イコライザーをまったく使わずにすんだと言う事です。レコーディング、ミキシング、マスタリングの全て作業でです。私のエンジニア論は、演奏家のイメージしているものを、極力なにもせずに、お客さんに伝えるのが、ベストではないかと言う事であって、それが、一番、音楽と言うものが伝わって楽しめるのではないかと思っていたのです。

イコライザーとは、ある音域の周波数を強調させたり、減少させたりする機材ですが、近年の機材や、デジタルの機材では、位相が遅れて、音が歪むのです。ようするに音そのものが、曲ってしまうのです。私が所有している、一番初期のパラメトリックイコライザーのITIは、ほんとに位相がずれないのですが、最近の機材や、デジタルでは、何かが狂っています。それは、特に最近のシーンでは、顕著に現れていて、それで本当の音が伝えられるのかと疑問を抱いていました。ほんとの初期の時代の録音は、そんなものはなく、全てを人間の感覚でやるしかなく、エンジニアの感性の鋭さが現場では要求されていたはずです。そんな中、今そう言うレコーディングは出来ないものかと思っていました。

私の、録音の信念は、音を録るのではなく、人を録るものだと思っています。それを、お客さんに伝える為の、中間の役であると。

今回の録音ではそれが出来たと思います。しかし、それが出来る条件として、素晴らしい演奏家が、素晴らしい演奏をして、その瞬間の空間があり、それにあったベストのマイク等の機材選び、そのセッティング、それを前提とした、プロデューサーを含めたプロダクション及びレコード会社が同じ意志で動いている事が必要です。それがマッチした時、エンジニアは、機材を操作すると言う作業はあるにせよ、基本的には何もする事がないと言う事なのです。ただ、いるだけで良いと。

このJazzSamuraiデュオのお二人、加藤真一さん、スガダイローさんの演奏は、ほんとに楽しく、終止、私もただ楽しんだだけでした。

そう言うプロダクションの雰囲気なのでした。

これは、私がずっと理想に思っていたもので、それこそが、伝わる音楽になり得るものになると思っています。この感覚は、ほんとにエンジア冥利につきると言うものです。

是非、このアルバムを聴いて、この音楽の楽しさを堪能してください。

きっと楽しくて笑ってしまうかもしれません。

Mas Anai

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